スタート前、駿河台大の徳本一善監督は、留学生ランナーのジェームズ・ブヌカ(4年)にこう声をかけた。
「風が強いから、(先頭を)引っ張るなよ」
この日、箱根駅伝予選会の会場である陸上自衛隊立川駐屯地には朝から強い北風が吹きつけていた。レースが荒れることを予想し、エースのブヌカにライバルの風よけになるなと進言したのだ。
吹き荒れる風にどう対応するか。今大会はまさに、個々のランナーの地力が試されるレースとなった。
追い風と向かい風が激しく入れ替わり、崩れたリズム
予選会は駐屯地にある滑走路(1周約2.6km)を8周するハーフマラソンで、1チーム12名が出場し、各校上位10名の合計タイムで争われる。昨年より5校少ない41校が参加する中、序盤は監督が予想した通りに波乱含みの展開だった。
5km通過時点で、トップに立ったのは立教大。54年振りの本戦出場を目指すチームが得意のスピードを生かして前に出た。
だが、南北に長い長方形の周回コースで、徐々にそのスピードは削られていく。ほぼ1kmごとに追い風と向かい風が入れ替わり、選手にとっては走るリズムが掴みにくい。いったん集団走が崩れると、そこから立て直すだけの力はまだないように思えた。
15km通過時には、立教大は本戦出場圏内の10位以内からこぼれ落ち14位に。代わって浮上してきたのが、神奈川大(10km通過時点の17位から7位に)や法政大(同じく15位から6位に)といった箱根の常連校だった。
駿河台はこの時点でボーダーラインの10位。
明治の監督「今日の風くらいならうちの選手はビビらない」
はるか前方で、スタートから圧倒的な強さを見せたのが明治大である。明治の山本佑樹監督はターゲットタイムを3つにわけて選手を振り分け、上位を走れる選手には1km3分ペースの62分から62分半で走るよう指示し、10番手の選手には63分から63分半のタイムを意識させていた。
日本人2位となる1時間2分47秒の好タイムを叩き出した加藤大誠(3年)を筆頭に、上位26人までに7名もの明治大の選手がなだれこんでゴールしたのは圧巻だった。
「ただ、風の影響で全体的に30秒ずつ遅れている。見ている僕らよりも走っている選手は向かい風がボディーブローのように効いていたんだと思います」
山本監督はそうレースを振り返ったが、荒れたコンディションでもしっかり結果を出したことに手応えを感じているようでもあった。
「同じように3月の学生ハーフ(立川)も風が強くて、そこでうちは課題が浮き彫りになった。このままでは予選会はムリだよという話をして、選手の意識も変わりました。向かい風と上り坂は比較的苦しみ方が似ていて、夏合宿では積極的に上りを苦しみながら選手が走っていた。今日の風くらいならうちの選手はビビらずにスタートできたと思います」
8番手以降の選手がさらに力をつければ、今年の明治は箱根でも優勝争いに絡んできそうな勢いだ。
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