かつて大坂に「プロフェッサー」と呼ばれたコーチのウィム・フィセッテは、そう言い優しく相好を崩した。
“永遠のアイドル”であるセレナ・ウィリアムズを間近に見ることは、今でも「非現実的」だと大坂は言う。フィセッテの例えに倣うなら、そのセレナと対戦することは、彼女にとっておもちゃ屋に行くどころか、おもちゃの世界に入り込むようなものだろう。
同時に大坂はセレナ戦に挑むにあたり、「とても緊張したし、恐れてもいた」とも明かしている。
この「恐れ」と「ワクワク」は共存しうるものかと尋ねると、数々のトップ選手と時間を共有してきた若き名コーチは、「そう思う」と即答した。
「偉大なチャンピオンと同じコートに立てることに、そしてそのチャンピオンを破る機会を与えられたことに興奮し、同時に、光栄に思うものなんだ」
興奮がポジティブな精神状態を生み、恐れが冷静な判断力へとつながる。相反する2つの要素が連携を取りながら舵取りし、大坂の心技体の針をピタリと勝利に定めていた。
多くの有効な情報やデータを選手に与えることで有名なフィセッテだが、彼が大坂の能力のうち最も高く評価するのが、「自分で考え分析する力」でもある。特にサービスに関しては、ほぼ全てを彼女の「感覚」に委ねるという。
大坂自身は、セレナ戦のサービスについて「全然満足していない。ダブルフォールトが多すぎたし、ファーストの確率も低かったし……」と反省点ばかりが口をついたが、ここぞという局面ではエースやサービスウイナーを連発し、特に試合が終盤に近づくにつれ、セレナにコースも読ませなかった。
「セレナ戦でのなおみは、とてもスマートにサービスを打っていた。特に試合の中で、セレナのフォアハンドのリターンミスが多いことを見抜き、最後のゲームではフォアハンドに多くのサービスを打った」というのが、コーチ評。
確かに勝利への最終ゲーム、大坂はサービスをワイドに打ちエースを決めると、その後も2本連続でフォアサイドに打ち、サービスウイナーを奪う。そして最後は、相手の読みの逆を突くようにバックに打ち、動揺したセレナのミスを誘った。
「グランドスラムの準決勝で、セレナ相手に勝利へのサービスゲームを迎えてなお、あれだけ頭をクリアにできるのは彼女の才能だろう。確かに彼女には凄まじいサービスやフォアハンドがある。だがそれ以上に、彼女には考える力がある」
知将は、大坂の知性を手放しで褒めた。
そのような大坂の状況判断力や分析力、そして何より経験が、決勝では大きな意味を持つだろう。
対戦相手は、ジェニファー・ブレイディ。昨年の全米オープン準決勝でも対戦し、大坂が「この半年で一番意味のある勝利」に挙げた試合の演者である。
ブレイディにとって2歳年少の大坂は、彼女の言うところの「プロで早々に結果を残した同世代」だ。「私となおみ、それに彼女の姉は、フロリダで一緒に育ったようなもの。ローカルのジュニア大会で、よく顔を合わせていた」という少女時代から知った仲だ。
ただ当時の彼女は、テニスをする意義を見いだせず、プロの世界に羽ばたいていくライバルたちに羨望の視線を向けていたという。大坂も、そのような「成功した同世代」の一人。自分の能力を信じきれなかった彼女は、プロではなく、UCLAへと進学した。
その新たな環境下で、彼女は初めて「テニスを心から楽しいと感じた」という。卒業後はプロとなり、そして一昨年末には、拠点をドイツに移してさらなるジャンプアップを果たした。
初のグランドスラム決勝に挑むブレイディの心境を、大坂は自身の経験と重ね、「とてもナーバスで、同時に、優勝するチャンスがあることにとても興奮した。きっと私の対戦相手も、同じような心持ちになるでしょうね」と類推する。
「私の方が経験があることが、有利に働くのか否かわからない。相手が誰でも私が優勝候補と見られるだろうから、それが重圧になり、私に不利に働くかもしれない。相手は失うものがないので伸び伸びとプレーし、私は、負けを恐れて硬くなるかもしれない。色んな可能性が考えられる」
でも……と、過去3度のグランドスラム決勝を戦い、その全てで勝利した世界3位は続けた。
「現時点で私は、重圧は感じていないわ」と。
現地取材・文●内田暁
【PHOTO】2度目の全豪オープン制覇へ!メルボルンで躍動する大坂なおみ!
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