Search

コロナ禍の箱根駅伝、山の神・柏原竜二さんが占うレースの行方や上り坂の心得 - 読売新聞

 箱根駅伝の山登り5区で東洋大時代に4年連続の区間賞に輝いた「山の神」こと柏原竜二さん(31)(現・富士通企業スポーツ推進室勤務)は今、文化放送の番組「箱根駅伝への道」のナビゲーターとして、コロナ禍に見舞われた異例のシーズンを送る選手や指導者の「生の声」を、ラジオのリスナーに届けている。かつて沿道を沸かせたレースを、メディアの一員として伝えるようになって2年目。今大会の展望や取材者としての思いを、読売新聞オンラインの取材に、思う存分語ってくれた。(西口大地、込山駿)

 ――各校のメンバー16人を見て、まず思うことは。

 「青山学院大、東海大は、やはり充実していて……。意外と帝京がいいんじゃないかと。3区に遠藤大地くん(3年)という、前回新記録の区間2位だった絶対的な選手がいますし、キャプテンの星岳くん(4年)もいる。この2区から3区の流れがうまくいけば、いい戦いができるかなと思っています。明治もいいですよね。前エースの阿部弘輝くんはいなくなったけれども、怖いチームです。それから、早稲田。1万メートル27分台の選手を2人(ともに3年の中谷雄飛と太田直希)抱えることになっていますから」

 ――各選手の持ちタイムをみても、高速化は進んでいますね。

 「1万メートルが28分台の一桁とか27分台の選手を、今や各チーム一人くらいは持っている感じですね。1万メートルのチーム上位10人平均タイムをみると、駒沢大は28分26秒81です。僕たちの時代では考えられなかったなぁ。国士舘大のビンセントくん(3年)は27分39秒80ですか。城西大の菊地駿弥くん(4年)も1万メートル28分8秒25ですね。興味深いのは、創価に前回の10区で区間賞をとって、一時休学していた嶋津雄大くん(3年)が、紆余曲折のある中で帰ってきました。頑張ってほしいです」

 ――連覇のかかる青山学院大のメンバーは、どうみますか。

 「前回の2区で区間5位に入った岸本大紀くん(2年)が故障の影響で走れないのは、ちょっと大きな誤算なのかなと思います。原晋監督は、無理させても仕方がないし、16人は全員調子がいいとおっしゃいます。岸本くんの穴を、前回9区で区間賞の神林勇太くんをはじめとする4年生たちがどう埋めるか。6人いる2年生の若い力を、いかに使うのか」

 ――有力校の学年ごとのメンバー構成をみて、思うところは。

 「明治は、1年生が児玉真輝くん一人だけです。青山学院大も、1年生は佐藤一世くんだけですね。経験者たちで、ちょっと落ち着いたオーダーが組めるのかなと思います。そこに、彼らのフレッシュさをどう組み合わせていくのか、気になるところです」

 「早稲田は1年生が4人と、多いですね。駒沢大なんかも5人います。1年生が3人以上いるチームだと、少なくとも1人は実際に走ることになるのかなと。その1年生にタスキが渡るところで、どういう流れを作ってあげたいのかというのが、ひとつのキーになるのかなという気がします。レースの流れが悪いところで1年生に渡すことになってしまうと、そこからチーム成績を浮上させるのは、よほどの力がないと厳しいと思います。各校が1年生をどう起用していくかということには、注目したいです」

 ――今年は世田谷246や上尾など、11月のハーフマラソンの大会が軒並み中止になりました。箱根駅伝は全区間が20キロ以上の戦いですが、1年生に20キロを走る適性があるのかをみる機会に乏しかったシーズンです。

 「そうですね。たぶん練習はしているんですけど、箱根駅伝という独特の緊張感があるレースで、どうなるかというところです。各校にとって、今年の1年生起用はリスキーでもあるでしょう」

 「東洋は(1、2年時に1区で連続区間賞の)西山和弥くん(4年)の調子が『うーん』っていうところですね。ただ、東洋大牛久高出身の佐藤真優くんと学法石川高出身の松山和希くんという1年生ランナーたちがどういう走りをするかで、大きくレースが変わってくると思います。このチームで、僕がずっと『あと一歩だな、頑張ってほしいな』と思ってきたのが、前田義弘くん(2年)です。いいものを持っているし、身長も(1メートル89と)高い。1年生時と今年度の全日本大学駅伝での走りを比べると、かなり粘れるようになってきました。ハイレベルでスピードのあるレースの中でも、粘れるかどうか。それができるようになると、本当に強くなるものです」

 ――今年の1年生は、確かに逸材の宝庫ですね。その中でも話題の中心といえば?

 「順天堂の期待の1年生・三浦龍司くん、いいですね。その刺激をうけて3、4年生がしっかり頑張ってくれたと、長門俊介監督もおっしゃっていました。ひとまず今年はシード権獲得が目標でしょうが、三浦くんが2年生になった時が非常に楽しみなチームだなと感じます。三浦くんと中央大の1年生・吉居大和くんの1区対決も見たい。だけど『そこで消耗してもなぁ』というのも、チームとしてはあるでしょうね。両チームとも、考えていると思いますよ。三浦くんと吉居くんの2人で行かせてバチバチやる戦法をとるか。ここで消耗しちゃってすれちゃうのを避けるか。三浦くんについては(3000メートル障害で出場を視野に入れている)オリンピックが来年に延期になったことでもありますし。吉居くん(日本選手権で5000メートル3位入賞)に関しては、どの区間でも走れると思います。悩ましいですよね」

 ――2人の資質を比べると、いかがでしょう。

 「三浦くんにインタビューしたところ、彼は(昨年の全国高校駅伝1区など)失敗経験を持っていて、それを生かしているのが感じられました。『まだロードは苦手です』と言っていたんですよ。それでいて、全日本大学駅伝の1区や箱根駅伝予選会で見せた、あの走り。中盤まで抑えていて、後半にいけそうなところでスッといく。それだけの足が自分に残っているかどうかの確認を、ずっと客観的にみているんだろうなと思いました。彼に失敗経験があることを思うと、それに納得できるんですよね。吉居くんは、三浦くんと逆のインタビュー対応ですね。仙台育英高でロードもトラックもバリバリと(実績豊富で)、『出来ます』とガツガツ言える良さがある。全日本大学駅伝や箱根駅伝予選会で先頭切ってガツンといくっていう、あの走りっぷりに納得できる。インタビューすると『あ、だからこういう走りをするのか』っていうふうに、その選手の性格が見えてくるのが非常に面白いです。走りを見た後で『あぁ、こういう性格だったな』と、すりあわせができる感じもします」

 ――5区で2年以上連続して区間賞を獲得した選手は、柏原さんの4年連続を最後に出ていません。今年は母校の後輩の宮下隼人選手(3年)が挑みそうですね。

 「前回大会の宮下くんについては、彼はずっと『上りたい』って言っていた。だからこそ取れた区間賞だったと、僕は思っているんです。19年大会で区間賞の浦野雄平くん(国学院大、現・富士通)、その大会で区間2位の西田壮志くん(東海大4年)と、名だたる強豪を抑えての獲得でした。タスキをもらったときは14番手でしたから、チームの順位に対する危機感もあったのかもしれません。その危機感の中に『俺がやらなきゃ誰がやる』みたいなポジティブな気持ちが含まれていて、それがうまくはまったのかもしれません」

 「今回の宮下くんの走りは、すごく楽しみです。東洋OBだから色眼鏡で見ているのではないかと思われるかもしれないですけど、合同記者会見の記事を読むと、風格が出てきたと思うんですよね。1年前は、ルンルン気分で初めて箱根を走ります、みたいなところも少し感じられた。今年は明確に違います。『監督から、狙う区間賞の意味は違うって言われているので、取ります』。こんなこと言う子だったのかな、というね。浮足だった感じもありません」

 ――5区を走る選手たちにアドバイスするなら、どんなことでしょう。

 「最近は、取材先で『山登りの走り方を教えてください』と、選手からきかれることがあります。先日は、東洋大の関係者からも『宮下にアドバイスある?』ときかれました。『全てにおいてレベルアップすることが、たぶん速くなる秘訣です』と答えました。ここを何分何秒で通過して、このペースで走り抜ければ、たぶん区間新が見えてくる……という緻密な作戦を立てるのは、僕は良くないと思っています。それにとらわれてしまうから。結局のところ、全てをレベルアップしてポジティブに走らないと、あそこ(山登りの5区)はダメだよという話をしておいてくださいと伝えました」

 ――5区を一度経験した選手ほど、考え過ぎてしまう部分があるのでしょうか。

 「はい。ロジカル(論理的)になり過ぎるんでしょうね。僕は、ロジカルになったことないです。気にしていたタイムって、1キロと5キロの入りだけですもん。あとはもう、時計なんか見たって、何が何だかわからない世界です、あの区間って。こう言ってしまうと『アイツは天才だから』って思われるかもしれないですね。でも、そういう話じゃないですよ。そこまでに至る経緯とか準備というのが、すごく大事だと思うんです。僕らの頃は小田原中継所がメガネスーパー前だったんですけど、今は(5区の距離が当時より短くなっていて)鈴広のかまぼこ前ですね。1月2日、そこに行った時に、何を感じるかが勝負だと思います」

 「前の年とは、コースのコンディションだって絶対に違う。向かい風の日もあるだろうし、日体大の服部翔大くん(現・日立物流)が上った時(2013年。服部が区間賞を獲得)なんて、暴風雨で砂嵐だったじゃないですか。そんな時もある中で、このペースで、というのにとらわれちゃうと、2年目はダメですね。やってもいい結果が出ることがあるのは、1年目だけでしょう」

 ――以前インタビューした際、山登りに大事なのは「覚悟」だと発言されていましたね。

 「去年やおととしは、きちんと説明しきれなかったから、単純に『覚悟』という話をしていたんですよね。5区は、ポジティブな人間じゃないと上っちゃいけないと思うし、上れないんです。やっぱり自分で上りたいって思う人間がやるべき区間だと思います。やれと言われて上る人間に実力がつくかっていうと、つかないですから」

 ――今季は新型コロナウイルス感染拡大の影響で練習が制限される中、トラックや駅伝で学生ランナーの好記録が続出しています。その背景については、どうみていますか。

 「一つ言えるのは、選手の自主性が高まったのではないでしょうか。今までは『出されたメニューをやっていれば強くなる』という考えがあったかもしれません。人からメニューが出されなくなった瞬間に、今までの練習ってどうだっけ? というのを自分なりに咀嚼(そしゃく)しはじめたことでしょう。例えば3~4人でパートナーを組んで、じゃあ何やるかって自分たちで話をして。目的意識って何だろうという話になる。やらされている練習じゃなくて、やらなきゃいけない練習とは何だろうという方向にスイッチした結果なんだと思います」

 ――そんな自主性の芽生えを実感する言葉を、各大学を取材する中で、実際に選手から耳にしたことはありましたか?

 「はい。たとえば、早稲田の太田直希くんから。彼は、春先に自主練習になって寮も解散になった時に『自主練で750キロ(月間の合計で)走りました』と言っていました。『えっ? 普段の練習より走っているよね』と聞き返したら、長い距離を走り込む意味と、体力を見つめ直したということでした。誰かに言われたのかと尋ねたところ、『言われなかったっす。自分は何やっているんだろうって、思ったっす』と答えるんですよ。『あ~、それ分かるよ。雨の日なんか行きたくないよな、ホント』って共鳴したら、『そうなんです。雨の日は、誰か止めてくれって毎日思いました』と。練習着になって靴を履く、着替えの時間がおっくうで仕方なかったそうです。やらなきゃいけない。何のために? 自分のために。そういう葛藤がすごくあったのだろうなと、よく分かります。まあ、着替えさえ終わったら、あきらめて外に出るものなんですけどね。そんなやり取りをしていましたから、彼に日本選手権で好記録が出たのは当たり前のことだと思えます」

 「太田君を例に挙げましたが、ほかにも似たことが起きていました。国学院大の臼井健太くん(4年)なんかも、ケガが多くてなかなか箱根駅伝で走れずに落ち込んでいた時もあったけど、調子を取り戻してきています。後輩の主力選手たちと練習をして、自分に何が必要なのかと、学年の垣根を越えたディスカッションをしたそうです。彼もやはり、やらされている練習ではないというところに、楽しさを感じていました。きついけど、楽しい。コロナ禍で少人数の話し合いだったというのも、やるべきことや自分の立場にきちんと焦点を合わせられるから、良かったと思いますね。大人数だと、会議でもそうですけど、やることや言うことがぼやけるじゃないですか」

 ――各大学の監督も「学生の自主性」っていう話をよくされていた。でも、監督にとっては、学生に自主性を与えるっていうのは、勇気がいることでしょうね。 

 「そうですね。帝京大の中野孝行監督は『俺も成長させてもらったよ』という話をされていました。『言いたいことも、やらせたいこともいっぱいあった。でも、ぐっとこらえた。自分たちでやりなさいと』と、おっしゃっていました。僕も高校時代、自分たちで1か月間、練習メニューを考えなさいと言われた時があったんです。そういう時の思考って、監督はどんなメニューたてていたっけ、というマネごとから始まります。そのうち、ロジカルに練習方法を考えるようになる。たとえば1万メートルのペース走ですと言われた時に、以前はペース走のことしか見ていなかったのが、1か月のトータルとして練習メニューの中の1万メートル(の意義や位置づけ)を、一歩引いて上から見渡せるようになってくるんです。中野監督のように『お前たち、自分で考えろよ』と常におっしゃる監督さんのもとでは、コロナというピンチを、成長のチャンスにできるのかもしれないですね。帝京、きっちり調子を上げてきていることでしょう」

 ――柏原さんの学生時代、自分から走るという意味では、2011年の東日本大震災当時が思い出されます。あの経験とシンクロする部分はありましたか。

 「そうですね……。僕は当時、2~3週間は『自分は何をやっているんだろう』と思っていました。やっと家族や(福島・いわき総合高時代の)恩師の佐藤修一先生に電話がつながったのは、10日後でした。あの時、佐藤先生に『そっちで練習をしなさい。おまえは走ることが一番の仕事だ』という意味のことを言われたのを、今も覚えています。自分が走って『福島県・いわき総合高校』って名前が出るだけで、東北の人たちが『福島の子なのか』ということで見てくれれば。そのたった数十分間でも、つらさを忘れられればいいのかなと思っていました。とにかく、僕が走って(メディアで)取り上げられれば、誰かが何かを忘れてくれる時間が生まれる。そういう思いの1年間でした」

 「今も(東京の感染者が)何百人とか、いやなニュースばっかりじゃないですか。そういう中では、何かに熱中する時間を作って、つらさを思い出さないようにすることも必要だし、盛り上がるにはスポーツが一番なのかなと思いますね。今年のスポーツに、きっと脚色はいらないとも思うんです。全日本大学駅伝、陸上の日本選手権、他競技の大会をみても、今年のスポーツ選手は、みんなすごく楽しそうにプレーしてくれていますよね。見ている側も楽しくなる。僕らメディアは、それを全力で人々に届けるということでしょう」

 ――最後に、3強、4強、5強、はたまた6強とも言われている今回の箱根駅伝、優勝の行方をどう予想しますか。

 「うーん、わからないですねえ。どのチームにも勝つチャンスがあると思います。今回、選手の力は横一線だと思います。(1万メートルの持ちタイムが)28分台一桁の選手同士が同じ区間で当たっても、そんなに差ができません。ですから、監督の采配、相手の区間配置を読み切る手腕にかかっているんじゃないでしょうか。意表を突く区間配置をできるかどうかというところが、勝負のカギになるかなと思っています。青山学院大はこれまで、『ザ・王道』といった作戦でくるケースがありました。駒沢大も王道の布陣で臨むケースが結構あります。東海大や東洋大は、割と意表を突いてくる印象を持っています。自分たちの駅伝をさせるのか、相手の流れを読むのか、そこがポイントだと思いますね」

 ――もしも、パネルに大学名を書いて出さなくてはならない番組に出演したら、どこの名前を書きますか?

 「えーっと……。『青東駅伝』って書きます。(かつて読売新聞社主催で長年にわたって開かれていた)青・東駅伝に引っかけて。青森―東京間ではなくて『青山学院―東海間』ということです。この2校が中心で進む勝負だろうと思います。ただし、絶対ではない。他校が、どれだけ横やりを入れられるか、というところじゃないですかね」

 10月から元日まで、火~金曜の「斉藤一美 ニュースワイドSAKIDORI! Over Time」内で、午後6時30分ころから放送。柏原さんが「ナビゲーター」として、箱根駅伝を目指す大学、学生ランナー、そして選手を支える関係者の声を、リスナーに届ける。柏原さんは今回の箱根駅伝本番でも、同局の実況生中継番組で解説を務める。

Let's block ads! (Why?)


からの記事と詳細
https://ift.tt/37ZYYOI
スポーツ

Bagikan Berita Ini

0 Response to "コロナ禍の箱根駅伝、山の神・柏原竜二さんが占うレースの行方や上り坂の心得 - 読売新聞"

コメントを投稿

Powered by Blogger.