今夏の全国高校野球選手権奈良大会の決勝を戦った天理と生駒の“再試合”は、両校の歓喜のNO.1ポーズで終わった。

7回2死で天理内野陣がマウンドへ。主将だった戸井零士内野手(3年)が「全員で思いきり喜ぼう」と声をかけた。生駒の最後の打者の打球を中堅手がキャッチしたあと、天理ナインは全員が人さし指を掲げてマウンドへ。そこに、三塁側から生駒ナインも加わった。全員で抱き合い、喜び合い、思いを1つに。三塁コーチャーを通じて生駒に声をかけていた天理の内藤大翔(やまと)内野手(3年)は「最高の引退試合になりました」と笑った。

7月28日の決勝で見られなかった光景だ。前日、生駒野球部に新型コロナウイルス感染による体調不良者が続出。準決勝で智弁学園を破ったベンチメンバー20人のうち12人を入れ替えて決勝に臨んだが、初めてベンチ入りした選手が11人で経験不足は否めず、試合は0-21と天理に完敗した。

だが試合後、天理ナインはマウンドに集まって優勝を喜ぶことをしなかった。ベストメンバーで臨めなかった相手校に配慮。9回2死で選手だけでタイムを取り、戸井が「試合後に喜ぶのはやめとこう」と伝え、静かな幕切れを迎えた。中村良二監督(54)は試合に出られなかった生駒の3年生を思い、練習試合開催を提案していた。

天理の配慮に感謝した生駒の保護者会は横断幕を贈り、天理は甲子園のアルプスに飾ってともに戦った。この日の球場一塁側にも横断幕が飾られた。

試合前には、合同でシートノックを実施。遊撃の戸井は、生駒の遊撃手とグラブを合わせた。プレーボールの前から、いい試合にしようという温かな空気がグラウンドにあふれていた。

試合は天理が3回に1点を先制したが、生駒が6回に2点を挙げて逆転。その裏、天理の内藤がフルスイングで左翼スタンドに同点ソロをかけ、内野ゴロで3-2と勝ち越し。天理が接戦を制した。

試合後は両校で記念撮影。病魔に苦しんだ夏の終わりを思い起こし、生駒の北野定雄監督(63)は「天理高校に、感謝しかありません。最高の試合になりました」と、“夏の延長戦”を振り返った。主将だった熊田颯馬外野手(3年)は「天理のみんなの今後の野球人生を、ぼくは応援していきたいなと思います」と、ユニホームと最高のライバルに別れを告げた。【堀まどか】