大相撲春場所は、千秋楽を3敗で迎えた照ノ富士が3度目の優勝を手にして大関復帰を確実にした。10日目まで1敗だった高安の失速から、終盤の優勝争いは大混戦に。現在の角界事情を如実に表す結果だった。
14日目の結び、照ノ富士―朝乃山戦の仕切り中だった。八角理事長(元横綱北勝海)が確認するように言った。「明日(千秋楽)は照ノ富士と(4敗の)貴景勝か。じゃあ、照ノ富士が(きょう)負けても、5敗の優勝はないわけだね」
14日目が始まる前は3敗と4敗合わせて7人に優勝の可能性があった。千秋楽は4人に絞られていたが、14日目に照ノ富士が敗れていれば、決定戦を含めて優勝に手が届く4敗に5人が並び、1差の5敗にも6人がいるという展開だった。
15日制度が定着した1949年夏場所以降、優勝力士で最も勝ち星が少ないのは11勝。72年初場所の平幕栃東と5人による決定戦となった96年九州場所の大関武蔵丸、2017年秋場所で大関豪栄道との決定戦に勝った横綱日馬富士だ。理事長の脳裏に一瞬、それを下回ることがないか、不安がよぎったのだろう。
優勝ラインが下がる心配がある要因は、横綱白鵬に次ぐ看板力士が育っていないことが一番。責任が重いのは大関陣だ。3人とも関脇以下で優勝を経験しているが、昇進後に賜杯(しはい)を抱いたのは昨年11月場所の貴景勝のみ。期待の大きい朝乃山、正代は上がる前の方が勢いがあった。
今場所で言えば、高安の自滅は痛いが、照ノ富士も先場所までと違って脇の甘さや攻め切れない取りこぼしなどがあった。結果的に前半で3敗した貴景勝、千秋楽まで役力士との対戦がなかった碧山までが、最後の優勝争いに加わる展開を作ってしまった。
最近の優勝力士を見ると連覇は18年春、夏場所の鶴竜が最後だ。以降は16場所連続で入れ替わっている。この間に御嶽海、貴景勝、玉鷲、朝乃山、徳勝龍、正代、大栄翔が初優勝を飾った。御嶽海と貴景勝は2度目も経験している。
それでも、横綱陣を追い落とす力士は出て来ていない。鶴竜は今場所中に引退を発表したが、白鵬と2人に5場所連続の休場を許した原因の一つが、この新しい力の追い上げがなかったことだと言って良い。
けがなどで明らかに全盛期の力はない白鵬。それでも白鵬がいなければ、その時に好調な者が優勝をさらう構図が定着してきた。だが、今場所の逆転優勝で今の実力ナンバーワンは照ノ富士だと証明された。彼が大関復帰だけでなく、次の横綱を狙える存在になれるか。そうでなければ、混戦はまだまだ続く。(竹園隆浩)
現役力士の優勝回数
①白鵬 44
②照ノ富士 3
③貴景勝 2
御嶽海 〃
⑤正代 1
朝乃山 〃
大栄翔 〃
玉鷲 〃
栃ノ心 〃
徳勝龍 〃
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