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苦難の連続・傷ついた威信…「特別な五輪」開会式、選手は迷いなく進む - 読売新聞

 2020年7月開幕の予定から新型コロナウイルスの感染拡大による大会延期で「プラス1年」となった東京五輪は23日、東京・国立競技場で開会式が行われた。選手の入場行進前のパフォーマンスは、約40分間に短縮される一方で、コロナ禍と闘い続けたアスリートの努力をたたえた。先行して始まっているソフトボールやサッカー女子、同男子などに続き、競技は24日から本格化する。

 開会式の会場には、富士山とその頂上で輝く太陽を模した聖火台、掲揚台のある舞台が置かれた。シドニー五輪女子マラソン金メダルの高橋尚子さん(49)や前回東京五輪重量挙げ金メダルの三宅義信さん(81)、医療従事者たちの手で運ばれた日本国旗は、歌手のMISIAさんによる君が代に合わせて掲げられた。

 入場行進では男女平等推進のため、今大会から男女各1人が旗手を務められることに。日本は次回パリ大会開催国のフランスに続いて最後に登場。旗手でバスケットボール男子の八村塁(ウィザーズ)、レスリング女子の須崎優衣(早大)を先頭に選手、役員計155人が行進した。

 大会組織委員会の橋本聖子会長のスピーチに続き、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は「皆を一つにするスポーツの力が希望を与える」と述べた。

 23日は開会式に先立ち、アーチェリーとボートの競技がスタート。24日は、日本勢の活躍が期待される競泳が始まり、男子400メートル個人メドレー予選に優勝候補の瀬戸大也(TEAM DAIYA)、女子400メートルリレー予選に池江璃花子(ルネサンス)が登場する。柔道では、男子60キロ級の高藤直寿(パーク24)と、女子48キロ級の 渡名喜風南となきふうな (同)が先陣を切る。重量挙げ女子49キロ級では、三宅宏実(いちご)が5大会連続の舞台に立つ。

 色とりどりのマスクを着けた選手たちが距離を保ちながら、国立競技場のフィールドをゆっくりと進む。人影のないスタンドに向かって振る手は力強く、迷いなく前だけを見ている。アスリートにとって待ち焦がれた時間が、ようやく訪れた。

 ここまでの道のりは苦難の連続だった。新国立競技場の当初計画案と大会エンブレムが立て続けに白紙撤回されたのは6年前。機運が盛り上がりを見せ始めたところで、昨年はコロナ禍に見舞われ、大会の1年延期に追い込まれた。大会組織委員会の会長交代や開閉会式の演出担当者の解任なども続き、不祥事の連鎖は止まらない。抗議活動も相次ぎ、五輪の威信は大きく傷ついた。

 厳しい目を向けられたスポーツの祭典は、選手たちも戸惑わせた。時に「踏み絵」を迫られ、参加する意欲を見せただけで批判の矛先を向けられた。観客の有無を巡る議論に結論が出てもなお、開催の賛否は真っ二つに割れたままだ。収束の兆しを見せないコロナ禍に、競泳女子の池江璃花子(ルネサンス)は揺れる思いを口にする。「開催されてよかったという気持ちも、不安もある」

 競技場に足を運ぶ機会を奪われた人たちは、テレビの向こうで 固唾かたず をのんで見守っている。誰のための五輪なのか。コロナ下で開く意味は何なのか。大上段に構えた問いかけに、正面から向き合うのは苦しい。それでも、1万人余りのランナーの手を渡ってきた聖火を目にする選手なら、きっと自問自答するだろう。

 16日後、再び国立競技場で、その答え合わせをしてほしい。どんな考えでも構わない。死力を尽くしたアスリートが出した答えなら、その全てが正解だと、多くの人はうなずいてくれるはずだから。(深井千弘)

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