第103回全国高校野球選手権大会は最終日の29日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で決勝があり、智弁和歌山が智弁学園(奈良)を9―2で破り、第82回大会(2000年)以来21年ぶり3回目の優勝を決め、甲子園決勝では初となった「智弁対決」を制した。
脳裏に焼き付いていた「ちゃんとやってよ」の金言。2020年に指導を受けたプロ野球・オリックスや米大リーグ・マリナーズなどで活躍したイチローさん(47)=本名・鈴木一朗=の教えに、智弁和歌山の選手たちは日本一という結果で応えた。
智弁和歌山の教職員と草野球で対戦するなどの交流があった縁で、高校生の指導に必要な「学生野球資格」を回復していたイチローさんが20年12月に3日間、非常勤コーチとして野球部を指導した。
走塁では「なるべく動きはシンプルな方がいい。やらないといけないことが増えると野球は難しくなる」「緊迫した時は全体を見る。筋肉が緊張するとパフォーマンスが下がる」などアドバイスを受けた。打撃練習では身ぶりを交えた指導に加え、選手たちはイチローさんの一挙手一投足を逃すまいと観察した。
4番を務める徳丸天晴(3年)はキャッチボールの相手役を務め「言葉の一つ一つに重みがあり、主に上体の使い方を教えていただいた」と振り返る。捕手の渡部海(2年)も「小さいことの積み重ねがとんでもないことになる」との教訓を胸に、スローイング練習を継続してきた。
宮坂厚希主将(3年)は「教えてもらったことはメモに残しているが、印象に残っているのは3日目の終わりに言われた『ちゃんとやってよ』だった」と語る。受け継いだ技術を、実践し継続してほしいとの意味だ。市和歌山との和歌山大会決勝では八回2死一、二塁から三遊間寄りの遊ゴロで、一塁走者の宮坂がスピードを緩めることなく二塁を駆け抜けてセーフに。挟殺プレーとなった間に、今度は二塁走者が本塁に生還し、追加点をもぎ取った。イチローさんからの「ケースによっては走者は滑り込むより駆け抜ける方が速い」との教えを忠実に実行した結果だった。
新チーム発足後から順調な滑り出しだったわけではない。昨秋は新人戦、和歌山大会、近畿大会と3度続けて、プロ注目の小園健太(3年)を擁する市和歌山に敗れ、4年ぶりにセンバツ出場を逃した。中谷仁監督(42)は「何とか県内で勝って、甲子園に行く思いを強く持った学年」と語る。停滞したチーム状況を打破するため、異例の主将交代も行った。小園対策として打撃マシンの球速を160キロに設定するなど対策を行い、春、夏の和歌山大会決勝で2連勝しリベンジを果たした。
甲子園でも、初戦の2回戦は大会史上初となる不戦勝。初登場した3回戦は8月24日と、和歌山大会決勝から約1カ月試合から遠ざかったが、実戦感覚が鈍ることはなかった。中谷監督は「(イチローさんから)この大会も見ているよというメッセージをもらっている」と語る。異例の大会でも動じることなく、「ちゃんとやりました」と胸を張ることができた。【藤田健志】
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