ボルダーの4つの課題とリード。
そのすべてを完登するという離れ業でオリンピックの切符をつかんだ安楽宙斗選手。
土壇場で見せた圧倒的な登りの原動力となったのは、目前で内定を逃したことし8月の世界選手権での悔しさでした。
今シーズン、スポーツクライミング界にすい星のようにあらわれた安楽選手は、初参戦したワールドカップで、ボルダーとリード両種目の年間総合優勝を果たし、脚光を浴びました。
同一シーズンで年間総合優勝を果たしたのは史上初めてで、わずか1シーズンでクライミングの“王者”とも呼べる存在となったのです。
8月の世界選手権でも前評判は高く、3位以内に入ればパリオリンピックの出場権を獲得できるという条件も難なくクリアできるハードルのように見えました。
ところが、世界選手権では、その独特の雰囲気に飲まれてしまったといいます。
前半のボルダーで3位につけ、自信を持っていた得意のリード。
多くの選手が苦しんだ難しいホールドで、あえなく落下して4位に終わり、オリンピックの代表内定にあと1歩届きませんでした。
安楽選手は、「プレッシャーもあって、何かもやもやしたまま終わった感じがあった。出しきれずに負けるというのはすごい悔しかった」と振り返りました。
世界の舞台の経験が浅い16歳。
それでも安楽選手のすごさは自分で気持ちの切り替えができるところでした。
失意に終わった世界選手権のあと、「どう成長につなげるか」と気持ちを切り替え、「練習を重ねて、プレッシャーに負けないくらいの“自信”を持つことが一番だと思った」と徹底したトレーニングを積みました。
みずから練習メニューを考えている安楽選手は、伸ばすべきポイントを持久力と筋力アップに定め、徹底した壁の登り込みや、各地のジムを訪れて、ボルダーのさまざまな課題にトライすること、さらに専門のトレーナーをつけた筋力トレーニングも重ね、レベルアップを図ってきました。
そして「世界選手権のリベンジ」として臨んだ、今回のアジア予選。
決勝のボルダーでは、持ち前のリーチの長さに加えてパワーも増したことで、傾斜の厳しい課題やダイナミックな動きが求められる課題などにも対応し、3つ目の課題までを「一撃」でクリアしました。
最後の4つ目の課題では、上部のホールドに飛びつくときに体が振られて苦戦しましたが、「焦らずに落ち着いて」と冷静に動きを変えて登り切り、4つの課題すべてで完登。
体力を温存しながらライバルに大きな差をつけました。
そして、得意とする後半のリードでも「いつもどおりに登れば大丈夫」とみずからに言い聞かせて、ただ1人完登を果たし、圧倒的な力でオリンピック代表に内定しました。
オリンピックの出場権がかかる大会でも「いつもどおり落ち着いて」と自分のスタイルを実践できたのは、積み重ねてきた練習による“自信”があったからでした。
試合後、安楽選手は「シーズン最初のボルダーのワールドカップに比べたら、比較にならないぐらい強くなっている。リードもずっと練習をしてきて、今の方が強くなっている。徐々に徐々に、1日1日ごとに成長できた1年だった」と、手応えと自信を口にしました。
オリンピックで活躍することで、「クライミングを広めたい」と話す安楽選手。
今回のアジア予選で見せた姿は、目標とするパリオリンピックの金メダル獲得に期待が膨らむ、“王者の登り”でした。
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